2013年1月31日木曜日

夫婦のランチ格差――おなかも心も満たしたい



アラフォー既婚
おなかも心も満たしたい
 「お昼代に1000円なんてもったいない」。取引先の男性に会社周辺のランチ事情を話したときに驚かれた。「僕は絶対500円以下」。ファストフードに飲食店の弁当と、近所を探索して飽きることなく堪能しているという。
 明治安田生命保険が20~50代の既婚男女に平日の昼食代を聞いたネット調査によると、夫が平均535円だったのに対し、妻は941円。1000円以上が6割を占めた。私も彼も世の典型ということらしい。
 ただ、数字を見ただけで女の横暴を言い立てるのは、少しうかつじゃない? 「昼食代格差」は妻の権力が大きいということではなく、昼食の意味合いの違いだと思う。男性にとって昼食は午後の仕事に向けたエネルギー源。ひとりでさっと済ませる人も多い。
 一方、女性は仲間と話しながら食べることで、おなかも心も満たして午後の仕事に向かう。リフレッシュを含めた場所や時間代が500円の差というわけだ。
 一人で食事することも多いのに1000円前後かける私の場合は、家事や仕事の騒がしさを離れた時間をつくるためのぜいたく代。つかの間の息抜き、見逃してくれるわよね。
30代既婚草食系
お金と時間 出所はどこ?
 午後一番で大事な取引先と会うことになり近くまで来たが、まだ約束の時間に余裕がある。うーむ、今のうちに軽くランチを済ませよう。そう思って入ったカレーの店が誤算だった。
 いわゆる「早い、安い」の店ではない。南国風とでもいうのだろうか。僕には無縁のゆったりした時間が流れ、若い女性たちが会話を楽しみながら食べている。香水くさい空気に圧倒されながら、メニューを見れば、どれも1000円を超えているじゃないか。いつも500円以下で済ませる僕には、想定外の出費だ。
 それでもカレーライスなのだから、すぐ出てくるだろうと首を長くしていたが待てど暮らせど現れない。約束の時間まであと10分のところでサラダが出てきた。おいおい。あと4分の時点で登場したカレーを、場違いな暴力的勢いでむさぼり、定刻ジャストで取引先に飛びこんだが……。
 こんな誤算が時々ある。勘違いする自分が悪いのは承知しているが、それにしても、なんで女性たちはあんなにゆっくり食べているのか。どこにそんな小遣いがあるのか。所帯持ちの僕にはまったく理解のできない花園なのである。

文学賞、なぜ増えてるの?――本の販売低迷、関心引く

からすけ
 このまえ芥川賞(あくたがわしょう)と直木(なおき)賞が発表されたよね。ほかにも色々な文学賞の名前を聞くけど、賞ってたくさんあるのかな?
イチ子お姉さん
 10年前と比べて1割以上増えてるそうよ。みんなの注目を集めるために、出版(しゅっぱん)社(しゃ)などが新たな文学賞を立ちあげる例も多いわね。
 からすけ 日本にはどのくらいの数の文学賞があるの?
 イチ子 芥川賞、直木賞のほかにも出版社や新聞社、自治体が設(もう)ける文学賞、推理小説(すいりしょうせつ)やSF、エッセーなどジャンルごとの文学賞、最近は書店員が投票で決める本屋大賞も有名ね。詩や短歌、俳句、童話や絵本の賞もあるわ。はっきりした数字はわからないけど、全国出版協会・出版科学研究所が把握(はあく)しているだけでも、漫画(まんが)を除(のぞ)いて200くらいあるそうよ。
 からすけ そんなに!
 イチ子 賞が増え始めたのは10~15年くらい前からみたいね。ちょうど本の販売額(はんばいがく)が下がり始めたころよ。本の販売額はピークの1990年代半ばには1兆円を超(こ)えていたけど、今は8000億円台にまで落ちてるわ。だから、出版社などが賞で注目を集め、少しでも本に関心を持つ人を増やすために文学賞を設ける動きが広がったの。金沢市の泉鏡花(いずみきょうか)文学賞など自治体が主催(しゅさい)する場合には、観光客(かんこうきゃく)を増やして地域(ちいき)を盛(も)り上げる目的もあるようよ。
 からすけ みんな本を読まなくなったのかな?
 イチ子 今はインターネットで簡単(かんたん)に情報(じょうほう)が手に入るし、テレビやゲームを楽しむ人も多いわ。景気(けいき)が悪くなると本を買うお金を節約(せつやく)しようという意識(いしき)も働くかもね。でも図書館の本の貸出数(かしだしすう)はここ10年で35%以上も伸(の)びてるの。本を安く買える中古書店を利用する人も多いから、本を読まなくなったわけではないと思うわ。
 からすけ じゃあ賞を設けても本は売れないんじゃない?
 イチ子 そんなことはないみたいよ。有名な賞を受賞すると、売れ行きは大きく伸びるらしいわ。特に芥川賞、直木賞、本屋大賞の3つの賞は受賞後は10万部近く売り上げが伸びるというデータもあるの。年に2回表彰(ひょうしょう)する芥川賞、直木賞を設けたのも本の売れ行きがよくない2月、8月の前に注目を集めて、掲載誌(けいさいし)や本を買ってもらおうという理由があったらしいわ。
 からすけ どんな人のどんな作品が受賞するの?
 イチ子 賞によって違うわ。すでに雑誌(ざっし)に掲載されたり、本になったりした作品を対象(たいしょう)にする賞もあるし、新しく書いて出版社などに送られてきた作品が対象の賞もあるのよ。対象となる作家も、これまで本を出したことのない新人や名前の知られた作家を表彰する賞もあるの。芥川賞、直木賞は日本で最も有名な文学賞だけど、「ノルウェイの森」や「1Q84」などで知られる村上春樹(むらかみはるき)さんはどちらも受賞していないわね。
有望な新人も続々誕生
 からすけ 文学賞が増えると、作家にとっては励(はげ)みになるよね。
 イチ子 そうね。たくさんの文学賞ができると、作品を評価(ひょうか)される機会も増えて、新たな作品を書く意欲(いよく)にもつながるわ。有望な新人もどんどん誕生(たんじょう)しているそうよ。賞の対象も広がって、表紙や挿絵(さしえ)にアニメ調のイラストなどを使った「ライトノベル」と呼ぶ新たなジャンルの小説も注目されるようになってきたわ。文学だけではなく、ビジネス書や実用書向けの賞も生まれているの。様々な賞を設けることで話題性も増すから、販売額の減少(げんしょう)に少しは歯止めをかけられるかもね。
 からすけ それに受賞すれば、賞金ももらえるんだよね。
 イチ子 そう。ほとんどの文学賞では副賞として賞金も出るの。賞によって額は違うけど、芥川賞と直木賞の場合、受賞者にはそれぞれ100万円が贈(おく)られるわ。推理小説を書く新人作家が応募(おうぼ)する日本推理作家協会主催の江戸川乱歩(えどがわらんぽ)賞では、1000万円が副賞として贈られるのよ。
 からすけ すごい金額だね。それなら僕も小説を書いて応募しようかな。
 イチ子 最近は文学賞に応募する人も増えているから競争も激(はげ)しいわよ。アスキー・メディアワークスという会社が主催する電撃(でんげき)小説大賞には昨年6000を超える応募があったそうよ。ライトノベルが対象の最も応募数が多いといわれる賞で、前回より800近くも増えてるわ。自分が書いた小説をたくさんの人に読んでもらいたい、作家になりたいという人は増えているようね。からすけも頑張(がんば)って面白い文章を書き続ければ、いつか作家になれるかもよ。
もっと教えて
表紙や彩色、「装丁」にも賞
 千代田区立九段中等教育学校の荒川美奈子先生の話 自分には難(むずか)しいと思っていた明治や昭和の文豪(ぶんごう)の本を、人気漫画家の描(えが)いた迫力(はくりょく)ある表紙に引き込まれて手にしたことはありませんか。同じ作品でも、カバーが違(ちが)うだけで本がアピールしてくるイメージは変わります。表紙やカバーのイラストやタイトルの活字や彩色(さいしき)をデザインし、本文の活字や用紙を選ぶなど、一冊の本の形を造る仕事を装丁(そうてい)といいます。
 本のパーツには様々な名称(めいしょう)があり、本を立てた時の上の部分は天、下の部分は地、本の閉じられた部分は背(せ)と呼ばれます。単行本の場合、背の上下、天・地に細く布が付けられています。花布(はなぎれ)と呼ぶこの小さなパーツの色や材質を表紙や本文に合わせて選ぶことも装丁家の仕事です。
 本の装丁に対しても賞があります。日本では出版された本のデザインに対しての賞だけでなく、書名を指定して広く装丁を募集する賞もあります。本は文字を追って内容を味わうだけでなく、手に取ってその美しさを愛(め)で、ページをめくる手触(てざわ)りを楽しむ総合的(そうごうてき)な文化なのです。

格安レンタカーなぜ急増?――「効率よく借りたい」多く



厳しい給油所、経営補う
 「格安料金を打ち出すレンタカー店をよく見掛けるね。1日借りて3千円を切るという看板もあったかな」。友人の言葉に探偵、松田章司が首をかしげた。「確かに安い。でも車離れが指摘される今、なぜ急に増えるんだろう。調べてみるか」
大手の半額
 まず向かったのは「100円レンタカー」を全国で約210店舗運営するカーベル(東京都中央区)。小型車なら10分間100円単位で借りられ、12時間3000円などの長時間プランもある。「普段使っている大手レンタカー会社の半額程度か」。章司は驚いた。
 「中古車を使っているのが格安料金のポイントです」と、レンタカー事業部長の和作克宣さん(50)が教えてくれた。同社は中古車販売店の運営支援などが本業だが、長引く不況や車離れなどで中古車販売が落ち込んだ。積み上がった車両在庫を生かす新規事業だ。店舗は自動車整備ができる施設に併設し、車両の点検・修理も怠らない。
 「どういう人が使っているのだろう」。章司は店舗を訪れた人に聞いてみた。「営業車として使っています。乗り心地は中古でも全く問題ありません」と会社員の林田亘さん(32)。経費節減のため社用車を必要最低限しか持たない企業も増えてきた。使う側にとっても業務の繁閑に応じて借りる方が効率的だ。
 店舗数はこの1年で5割増えた。もちろん週末の観光目的や、通院や買い物で使う人も目立つという。高級車や最新エコカーなどをメニューにそろえる大手レンタカー会社に対し、低料金や使い勝手を優先したい消費者ニーズに絞る戦略が奏功しているようだ。
 レンタカー市場全体もじわじわ拡大している。矢野経済研究所(東京都中野区)の調査によると、2013年の国内レンタカー市場規模は5100億円と、4年前より約9%伸びる見通し。「格安もあって新しいレンタカーの使い方が広がっていますよ」とカーベルの和作さん。「車を買わずに借りる生活スタイルが浸透してきたのか」と章司。
ガソリン低迷
 全国に1000店近くを展開する「ニコニコレンタカー」の運営会社、レンタス(横浜市)も訪ねてみた。同社も中古車を活用しており、小型車を12時間借りても2525円。「実は全国の給油所がフランチャイズ加盟し、急速に店舗数が広がっているのです」と専務の小林修さん(63)。
 この1年で店舗数は3割増えた。全店のうちおよそ7割が給油所に併設された店舗だという。給油所はガソリンの販売競争が厳しいうえに石油価格高騰で収益が悪化。エコカーの登場もあって、昔よりガソリンが売れにくくなってきた。
 「とはいえ新事業はリスクも大きいのでは」。章司が尋ねると「既存の設備や人員を使うので、初期投資や固定費の負担が小さくて済みます」と小林さん。給油所には車両の保守点検設備や駐車スペースなどが備わり、受付業務も手が空いた従業員で十分対応できる。さらに給油所経営特有の事情もあるという。
 そこで給油所の業界団体、全国石油協会(東京都千代田区)の渡部勝典さん(58)にも話を聴きに行った。「来年1月末に国の規制が強化され、地下に埋めてある古い石油タンクは補修などの対策が必要になるのです」。タンクが腐食して石油が漏れ出す事故が頻発し、アスファルトなどによる補修や漏れを感知するセンサー設置などの対策が必要という。補修工事には数百万円の費用がかかるようで、厳しい給油所経営にとっては新たな収益源の確保が課題になっている。
 資源エネルギー庁によると今年3月末時点の給油所数は3万8千カ所弱。ピーク時の1995年より4割減った。レンタカー利用者が給油すればガソリン販売を増やせるので、一石二鳥の経営というわけだ。
 「余剰中古車の活用と給油所の経営難。課題克服の新たなビジネス」。章司がカフェで格安レンタカー店が増えている事情をまとめていると、石油流通などに詳しい東洋大学教授の小嶌正稔さん(54)が声をかけてきた。「給油所のように消費者の暮らしに身近な基盤があると、他のビジネスにも生かしやすいのです」
危機が原動力
 高齢化が進み、自宅から離れた場所で買い物をしたり、サービスを利用したりしにくくなることも追い風になっているという。「実は家庭向けに伸びているウオーターサーバーの商売も、意外な販路で伸びていますよ」と小嶌さん。
 章司は宅配水大手のアクアクララの事業を手掛けるレモンガス(神奈川県平塚市)に聴いた。「プロパンガス宅配のノウハウや販路を生かしているのです」(広報)。実は同社以外にも多くのガス会社が宅配水ビジネスに参入していることがわかった。ミネラルウオーターもプロパンガスも「重い製品を家庭に届ける」点では同じ。プロパンガス市場が縮小傾向で新たな「収益の柱」の育成が欠かせなくなっているという。
 「危機が新ビジネスの原動力か」。章司は経営史に詳しい一橋大学教授の橘川武郎さん(61)にも意見を求めた。「産業には寿命があります。長寿企業は多角化に成功しています」
 例えばデジタルカメラの普及で様変わりした写真市場。富士フイルムはデジカメを開発しながら高機能材料や医療関連などの分野へ事業領域を広げていった。これに対して米大手のイーストマン・コダックは、事業の構造転換が遅れ経営破綻に追い込まれた。「手遅れにならないよう、ピンチの時は危機感を持って経営改革を進めることが重要です」と橘川さん。
 「うちの事務所は先行き大丈夫だろうか」。事務所に戻った章司がつぶやくと、所長が胸を張った。「経済調査まで手を広げて多角化しているから、意外と不況に強いんだぞ」
これも調べました
車離れ、中古車も打撃?
エコカー普及政策も廃車促す
 若者を中心とした「車離れ」が指摘されるなか、国内の中古車市場も縮小傾向にある。日本自動車販売協会連合会(自販連)によると、2011年の中古車登録台数(軽自動車は除く)は377万台と、5年前より25%減った。足元では被災地での需要増などから販売台数はやや回復しているものの、新車販売が低調で中古車の下取りが減り、販売も鈍るという構図が続いている。
 特殊要因が中古車の流通量を一時的に減らしたこともある。08年の北京五輪開催前には、中国での建設ラッシュを背景に金属価格が急騰。買い手がつきづらそうな車は解体して、鉄やアルミのスクラップとして売りさばいた。ただ建設が一段落すると需要は落ち込み金属価格は元に戻った。
 09~10年にエコカー普及のため実施された「スクラップインセンティブ」という政策も流通量を減らした。登録から13年を超える車を廃車にしたうえで環境対応車に買い替えると、国が最大25万円の補助金を出す仕組み。まだ乗れる車でも、下取り価格が安い場合は多くがスクラップとなった。
 まだ使える日本製中古車の有効活用策として、格安レンタカーのようなアイデアも必要になりそうだ。

クレジットカード賢く活用(下)現金還元、使いやすく


付帯保険、条件確かめて
 クレジットカードは現金いらずの決済手段というだけでなく、使い方次第で様々なメリットがある。現金や商品券などと交換できるポイント制度や、旅行中のトラブルなどを補償する付帯保険だ。カード選びではこれらを考慮することが大切。自分にとってお得なカード選びのポイントと注意点をまとめた。
 たまると様々な商品やサービスと引き換えることができるクレジットカードのポイント。最近は現金そのものを還元する「キャッシュバック型」も注目を集めている。カードを選ぶ際には、まずポイントの還元率と還元方法をチェックすべきだろう。
年会費に注意を
 キャッシュバックを受けられるカードで比べてみよう。現金の還元方法は主に2つある。利用額に応じて得たポイントを現金に換えるタイプと、利用額の一定割合を請求時に差し引くタイプだ。
 例えば三菱東京UFJ銀行のクレジットカード「三菱東京UFJ―VISA」のポイントは商品や提携先のポイントとの交換に加え、キャッシュバックが可能。1000円のカード利用で1ポイントを付与。専用サイトなどで手続きをすると、1ポイント当たり5円がカードの決済口座に入金される。1000円の利用で5円の還元なので、ポイント還元率は0・5%となる。
 一方、ポケットカードが発行する「P―oneカード」は毎月の利用額の1%分を請求時に差し引くタイプ。買い物で値引きしてもらうのと同じ効果が得られる。「ポイント交換の手続きがいらないうえ、失効することもない」(同社経営企画部の広田泰久次長)のが魅力だ。
 そのほかのカードも還元率が0・5~1%のものが一般的。これにキャンペーンやカード発行会社関連の商品・サービス利用でポイントが上乗せされることがある。
 専門サイト「クレジットカードランキング」の編集長、早川聡さんは「現金還元型は割引のわかりやすさに加え、ポイント管理の手間がかからないメリットがある」と指摘。ポイントで買い物をするのが面倒と感じる人には向いていると見る。
 現金還元型以外でもポイントのメリットで定評のあるものがある。楽天グループの「楽天カード」はその一つ。楽天グループ外の利用でも100円につき1ポイントが付き(グループ内は2倍)、1ポイント=1円で楽天グループ内の買い物に使える。「キャンペーンなどでポイントがたまりやすい。楽天グループでよく買い物する人には向いている」と利用者の男性会社員(37)は話す。
 もっとも、年会費には注意が必要だ。その分、ポイント還元や割引の効果が打ち消されるからだ。
 前記の3つのカードの場合、一般カードの年会費は無料なので還元・割引効果はそのままメリットになる。だが、現実には年会費をとるカードは多い。3150円の年会費をとる、ある外銀系カード会社のカードを例にとって、割引効果を検証してみよう。
 同カードのキャッシュバックは利用額の一定割合を割り引くタイプ。割引率は1カ月の合計利用額が5万円未満の場合0・25%だが、5万円以上20万円未満なら1%に、20万円以上は1・5%に変わる。仮に月21万円以上使えば、年会費はその月のキャッシュバックですべて取り戻せる。だが、毎月5万円未満の買い物しかしない人の場合、年間利用額は最高でも60万円に満たない。割引額も年1500円未満となり、年会費は取り戻せない。従って、このカードは月5万円未満の利用を想定する人には向いていないことになる。
 そのほか、年会費は初年度無料でも2年目から取るカードもある。十分注意しよう。
決済必要な場合も
 カードの付帯保険は一般にカードに加入さえすれば、申し込みや保険料が必要ないサービスだ。補償は主に3つある。海外旅行時のトラブルを補償する「海外旅行(傷害)保険」、国内旅行中のケガを補償する「国内旅行(傷害)保険」、カードで購入した商品が破損、盗難などで被害を受けた際に損害を補償する「動産総合保険」だ。カードによって付帯保険の内容は様々なので、気になる人はカード会社のサイトなどから問い合わせよう。
 特に調べておいた方がよいのは付帯保険の適用条件だ。カード会員なら自動的に保険を適用する「自動付帯」と、カード決済などを条件に保険を適用する「利用付帯」の2つのタイプがあるからだ。例えば楽天カードの海外旅行傷害保険は日本を出国する前、空港までの電車やバスなどの料金をカードで払った場合に限り保険が付く利用付帯。うっかりカードで払うのを忘れれば、旅行中にケガなどをした場合も保険の補償を受けることはできない。
 ポイントの還元率や年会費、付帯保険を確認したら、最後のチェック項目は「その他の特典」だ。ガソリン会社の提携カードでロードサービスが受けられたり、航空会社の提携カードで空港ラウンジが利用できたりする。小売店系のカードなら独自のポイントがもらえるのが一般的だ。
 いずれにせよカード選びは「自分の使い方で最もお得と思われる2枚程度に絞り、メーンのカードを決め集中的にポイントをためると効率的」というのがファイナンシャルプランナー(FP)に共通する意見。自分のライフスタイルに合わせて、どんな特典が必要かを考えながらカードを選ぼう。

クレジットカード賢く活用(上)一括払い前提に

利息高いリボ、支払いも長く
 もうすぐボーナスシーズン。欲しかったものを支給前にクレジットカードで買おうと考えている人は少なくないだろう。しかし、カード払いは借金だけに、使い方しだいで思わぬ負担がのしかかることがある。カードとどのように付き合っていけばいいか。賢い活用法を2回にわたり紹介する。
 「分割払いなら何回にすればいいか。リボルビング払いもお得だと宣伝されているし……。どれを選べばいいのか」。東京都に住む会社員のAさん(38)が、小学校に入学する息子のランドセルと学習机を買いに行ったとき、ひとしきり悩んだ。ランドセルはカードの一括払いで購入したが、学習机も一括払いにすると預金の残高が少々心もとない。そこで分割払いを選ぶことにしたものの、様々なタイプがあり、それぞれ利払いも異なるため、結局選べず買い物は先送りした。さて、どの払い方を選べばよかったのか。
 節約アドバイザーの丸山晴美さんは「原則、銀行口座に代金分がたまってから一括払いで買うべきだ」と強調する。理由は2つある。まず、カードでの支払いは一括払いと2回の分割払い、ボーナス払いは利息(手数料)がかからない(表A)。そして2回の分割払いは支出が2カ月にまたがり家計管理が難しいからだ。ボーナス払いは支給額が確定しているなら問題ないが、仮に不足したときには別途お金を捻出しなければならない。カード払いはあくまで借金だと意識して利用すべきだ、という考えだ。
多重債務招く恐れ
 日本クレジット協会によると、国内のクレジットカードの発行枚数は2011年3月末で3億2213万枚。成人1人が平均3・1枚のカードを保有している計算で、買い物に欠かせない存在になっている。ただ、その一方でカードの使い過ぎなどで家計に支障が出たり、中には過大な借金を抱えたりする人もいる。それだけに利用する際は、常に意識しておくべきことがある。表Bの4カ条を参考にしてほしい。
 4カ条でも特に注意したいのが、利息のかかる3回以上の分割払い。中でもリボルビング払い(リボ払い)だ。
 リボ払いは買い物の額にかかわらず、毎月の支払額をあらかじめ決めておき、それを超えた分は翌月以降に繰り越される仕組み。利率はカード大手でも実質年率15%程度が多い。事実上、分割回数が買い物の仕方次第で延々と延びていく支払い方法で、その分利払いが負担になることがある。
 金銭教育を手掛ける消費者教育支援センター主任研究員の柿野成美さんは講習でこんなクイズを出す。
 「リボ払いで12万円のパソコンを購入し半年後に5万円のスーツ、その3カ月後に6万円の時計を購入しました。毎月1万円とその手数料(実質年率15%)を支払ったときの返済期間と返済総額は?」
 答えは返済期間が23カ月。返済総額は約25万5千円だ。現金やカードの一括払いなら23万円で済むが、利息2万5千円が多くかかることになる(グラフC)。
 このケースは一定の元金として毎月1万円。それに利息を加えて返済する方法で計算している。このほかに「元金+手数料」を一定額にする方式もある。その場合は元金が減りにくく、返済期間がさらに長くなるため、利息が一層かさむので注意が必要だ。
 カード会社はリボ払いのポイント付与率を高めるなど特典を付けて利用を促している。だが、丸山さんは「利息分以上に得をするかどうか、よく考えるべきだ」と指摘。柿野さんも「多重債務に陥るきっかけがリボ払いだった、というケースも多い」と警鐘を鳴らす。
上限額決め利用を
 ATMなどでクレジットカードを使って借金ができる、キャッシングも注意した方がよいサービスの一つ。まるで銀行のキャッシュカードで貯金をおろすのと同じように、お金を手にできるので、一見便利そうだが、利払いは重い。
 「カードで現金を引き出すのは禁止。買い物で使いなさい」。千葉県の主婦Bさん(55)は、カード利用明細のキャッシングの形跡を見て、大学生の息子にあわてて電話を掛けたという。キャッシングで借りたお金の利率は、消費者金融と比べても高い水準だったからだ。当然、重い金利負担は多重債務などのトラブルに陥る一歩でもある。「極力利用しない方がいい」と柿野さんは指摘する。
 そもそも毎月のカード利用額の上限を、自分で決めておくことも大切だ。
 カード会社は買い物とキャッシングそれぞれについて、利用者ごとに上限額を決めている。だが、この上限額は「決して使っていい金額の範囲ではない」と丸山さんは指摘する。例えば買い物などの上限額は新社会人でも月30万円前後。大卒の平均的な初任給の1・5倍にもなる。キャッシングは貸金業法の「総量規制」の対象で、年収3分の1を超える借り入れは原則できないが、そもそもそれを上限にはできないだろう。
 従って、自分の収入に応じて、月5万円などと金額を決めることが重要になる。どうしても使い過ぎてしまう場合は、カード会社に連絡してショッピング枠を低めに設定した方がよい。キャッシング枠をゼロにすることもできる。
 とにかくクレジットカードは「打ち出の小づち」ではなく、簡単に借金ができる道具と考えることが大切だ。柿野さんは「カードは使い方次第で生活を豊かにも苦しくもする」と強調する。特徴をしっかりと理解し、計画的な利用を心がけよう。

税務署混み合う前に…――還付申告早めがお得、振り込みや手続き円滑



 1年間の所得税の精算をする「確定申告」は例年2月16日からだが、還付を目的とする申告(還付申告)は1月から可能だ。家計が厳しい時期だけに多めに天引き(源泉徴収)されている税金があれば早めに取り戻そう。還付を申告できるのはどんな場合か、ポイントをまとめた。
 「震災被害でお金がかかったので、早めに還付申告を済ませたい」。東京都に住む税理士の岡田俊明さんは今月中に税務署で手続きをする予定だ。2011年3月の東日本大震災による液状化で、自宅マンションの共用施設(駐車・駐輪場など)が大きな被害を受けた。昨年9月、ようやく原状回復工事が終わったが、1世帯当たり約70万円の工事費用を負担したという。
助言受けやすく
 この費用は12年の課税所得から差し引くことができ、税金が還付される可能性がある。災害で損害を受けた場合、課税所得から損害額や被害の原状回復費用などを差し引く「雑損控除」(図A参照)が使えるからだ。岡田さんは「自分と似たケースの人は多いはず。確定申告前の今なら税務署は空いているので早めに還付申告してみては」とアドバイスする。では、どんな場合に還付申告をできるのだろう。
 所得税は1年間の所得額をもとに課税される。会社員の場合、年末調整で税額が確定することが多いが、年末調整では多額の医療費を支払った人の医療費控除や雑損控除などは受けられない。そこで自分で前年の所得額と税額を計算し、税務署に確定申告をする必要がある。
 還付申告はその確定申告のいわば簡易版。自分で計算し直した申告税額が既に天引きされた税額より少ない人、つまり税金が還付される人が利用できる。
 例えば給与所得の他にアパートの賃貸収入がある会社員は、その分の税金を支払う必要があるが、医療費控除などを差し引いて全体として税金が還付される場合は還付申告ができる。「全体として税金を追加で支払う必要がある場合は通常の確定申告が必要」(税理士の野水鶴雄氏)だ。
 還付申告のメリットは確定申告が例年2月16日からなのに対して1月4日から手続きできる点だ。還付金も、1月早々に申告をすれば早ければ2月中に振り込まれる。その分家計は楽になるだろう。
 税務署で還付申告のやり方を教えてもらいやすいのもメリット。確定申告の時期は例年、申告義務がある自営業者らで税務署は混み合うが、1月なら比較的空いている。電子申告で還付申告することも可能だ。
通院の交通費も
 還付申告できる可能性が大きい、主なケースと注意点は以下の通りだ。
 ▼災害で損害を受けた人 地震、津波、台風などの災害で本人や生計が一緒で所得金額が38万円以下の配偶者の所有する住宅や家財が損害を受けた場合は、雑損控除を活用すれば還付申告できる可能性が大きい。課税所得額から差引損失額を引いた金額がゼロかマイナスになれば、天引きされた税金が全額還付される。
 ▼医療費を支払った人 医療費控除は1年間に実際に支払った医療費が10万円を超えた場合、一部を課税所得から控除できる所得控除の一つ(図B参照)。控除対象は病気やケガの治療などに直接かかった費用が主だ。生計が一緒の配偶者と子供の分や通院にかかった交通費も控除対象になるので忘れないように。
 ▼株式投資で損をした人 上場株式や公募株式投資信託の売却で損失が出た場合、申告すれば税金が還付されることがある。ある銘柄の売却益や配当金、分配金と他の銘柄の売却損を相殺(損益通算)できるからだ。相殺するには配当金、分配金の課税方法について「申告分離課税」(給与など他の所得と切り離して税金の計算をする方法)を選択したうえで申告する。
 それでもなお、損失が残ればその残った損失を毎年申告し、3年間(12年に生じた損失は13年~15年)繰り越せる。繰り越しの手続きは厳密には確定申告が必要だが、繰り越しで還付になる場合は「還付申告と同時でも税務署は受け付ける」(野水氏)だろう。
 ▼年末調整を忘れた場合 年末調整の手続きをうっかりし忘れ、全体として還付になる場合も還付申告が可能だ。年末調整をしていても、大学生の子の国民年金保険料についての社会保険料控除を忘れている人は多いかもしれない。年末に子が生まれたり、婚姻届を提出したりした人は還付申告で配偶者控除や扶養控除の適用を申告しよう。

子どものお金見守り術(下)使い道「SOS」で学ぶ



「必要」「ほしい」の区別を
 子どものころに身につけたお金の使い方は、その後の人生に影響する。お年玉をもらい、子どもの心が躍るこの時期は、欲求が膨らんでいるだけに親が見守ることが欠かせない。賢い使い道や貯金の意義を親子で話し合うよい機会でもある。
 「今年のお年玉で何を買ったか覚えている?」。「えーと、何だっけ……」。東京都に住む主婦A子さん(37)は昨年暮れ、9歳の長男の言葉にひどくショックを受けた。クリスマスに祖父母から高価なプレゼントを贈られ、お年玉をもらえばすぐにゲームソフトなどを買いに行くのが当たり前になっている長男。毎年、おもちゃは増えるが飽きるのも早い。
お年玉「貯金」首位
 学研教育総合研究所の「小学生白書」によると、小学生の男子がほしいものは携帯型ゲーム機(ソフトを含む)が34・5%で1位。据え置き型ゲーム(16・7%)とパソコン(9・2%)が続いた。女子は携帯電話(16・5%)がトップで2位以下は男子と同様の商品が並ぶ。
 いずれも高額とはいえ、お年玉で買える子どもは少なくない。だが、お金を使わせる前に親子で考えることは必要だ。千葉商科大大学院の伊藤宏一教授は「お金の使い方を『SOS』に分けて教えてはどうか」と提案する。
 最初のSは「Saving(貯金)」。「小学生白書」によるとお年玉の使い道のトップは男女とも「貯金」だった。親の目が光っていることがうかがえるが、大事なのは強制するのではなく、「本人が納得して貯金をさせること」と伊藤教授は指摘する。
 たとえば、将来の目標を考えさせ、そこに至る道のりを親子で考えてみる。それまでに必要なものや学費のだいたいの金額などを話し合えば、子どもの胸に響くだろう。
 まだ大きな目標を抱きにくいなら、ゲームソフトを数本我慢すれば、いずれもっと高価な買い物ができることを具体的に示すのもよい。子どもは納得すれば5000円の物を買うのは倍の1万円ためてから、などお金の使い方の癖が自然と身につくはずだ。
 次に買い物をさせる前に、ほかの使い方があることを教えるのも、忘れがちだが大切なこと。Oは「Offering」、つまり寄付や人のためにお金を使うことだ。子どもがプレゼントやお年玉を喜んでいる時期なら、ほかの人のためにお金を使う気持ちよさなどを伝えるにはもってこいともいえる。祖父母や友達へのプレゼントを考えさせるのは一案。世の中には困っている人がいることを教えることも時には必要だ。
 最後のSは「Spending(買い物)」。おもちゃやゲーム機の購入はこのSにあたる。その際に親として意識させたいのは「ニーズ(必要なもの)」と「ウォンツ(ほしいもの)」の違いだ。
将来の生活力に
 「お年玉を使うのは1月末以降」「使う前にくれた人に手紙を出す」。手紙にはお礼とともに「本を買いたいと思います」など使い道を記す。子どもの金銭教育を手掛けるファイナンシャルプランナーのいちのせかつみさんは、自分の子どもにこんなルールを守らせていた。肝はお金の使い道を事後報告にさせないことにある。
 舞い上がっていた子どもも1カ月たてば冷静になる。同じおもちゃでも長く遊べそうな物を選ぶ。手紙を書けば感謝の気持ちを思い出すし「下手なことには使えない」という意識も働く。こうして判断力が鍛えられるわけだ。
 もっとも、こうした判断力はお年玉の時期に限らず、日ごろから小遣いで学ばせることも大切だ。
 「60円あったらどれを買う?」。小学校でいちのせさんが実施する金銭教育教室の一場面だ。机には10~60円の駄菓子が並ぶ。当然、子どもたちは好きな駄菓子に飛びつく。
 そこで「忘れてた」と取り出すのが60円の鉛筆1本。「もう一度聞くよ。みんなに必要なものはどれ?」。こんな会話だけで子どもたちはほしい物と必要な物の違いを明確に意識し始める。スーパーで買い物を任せ、レジに行く前に本当に必要な物かどうかを考えさせるのも一つの方法だ。
 お金の使い方を学ばせることは今後さらに重要になると指摘する識者は多い。電子マネーの普及でお金を使う実感を得にくくなっていることが理由の一つ。加えて収入の伸び悩みで家計が厳しくなる家庭が目立ってきていることも大きい。「これからは子どもが自分の将来のお金をためる時代」と話すのはいちのせさん。それが将来の生活力になるという考え方だ。
 もちろん、厳しく買い物を制限するだけではだめ。失敗して身につくこともあるからだ。「無駄遣いで損をするのは子ども自身。失敗を責めるより、いい使い方をほめれば子は伸びる」といちのせさんはアドバイスしている。

子どものお金見守り術(上)「お年玉」どう渡せば



貯蓄・使い方の大切さ諭す
 もうすぐお正月。子どもの楽しみは親や祖父母からもらうお年玉だろう。だが、親にとっては悩みの種。誰からいくらもらったかを把握しなければならないし、大金を好き勝手に使わせるわけにもいかない。子どもにお金をどう渡し、使わせればよいか。2回にわたって考えてみよう。
 「えーっ、僕のお年玉なのに、なんで使っちゃだめなの」。主婦A子さんは毎年、小学生の息子の恨み節に苦り切っている。
 息子は毎年、総額2万~3万円のお年玉をもらう。そのまま渡せばゲームなどに使ってしまうので、預かることにしているが、息子の反発は年々激しくなるばかり。「来年はどうすればいいのか」と思い悩む。
マナーを教える
 お年玉の管理を子どもに任せるか、それとも親が預かるか。どちらにしても、親の一方的な判断では「子どものため」という思いは伝わらない。「大切なのは、まず子どもにお金をもらうことの意味を親が理解させること」とファイナンシャルプランナー(FP)の豊田真弓さんは話す。
 具体的には、お年玉をもらったら「親が個別にあいさつとお礼をしなければならない」ということを子どもに伝え、誰からいくらもらったのか内訳を報告させる。「お年玉をもらうことは当たり前ではない。特別なイベントということを年齢にかかわらず教える」。それが大切な第一歩だ。
 子どものお年玉は、少しずつ増えている。川崎信用金庫が毎年、地元の小学生を対象に実施する聞き取り調査によると、2012年正月にもらったお年玉の総額は2万6800円で、1983年(2万2千円)に比べ4000円以上増えた。
 小学生の場合、普段の買い物はせいぜい菓子やトレーディングカード、飲み物など。一度に使う金額は多くの場合、100円単位だ。それだけにお年玉は子どもにとって大金で、感覚が狂いやすい。どう渡すかを考えることも欠かせない。
 「子どもにお年玉を渡したままにするのは避けた方がよい」とアドバイスするのはFPの仲西康至さん。「将来のためにも一部を銀行口座などに預金させることが大切だ」という。
 銀行や郵便局などの貯金の仕組みは、小学校3、4年生になればわかる。預ける金額もお年玉の半額、もしくは3分の1程度でよい。正月明けに親子で一緒に金融機関に行き、子ども名義の口座をひらけば、無駄遣いの防止に役立てられる。何かあった時にこのお金を使うこともできると諭せば、「貯蓄の大切さも子どもが実感できるのではないか」(仲西さん)。
全て親管理は禁物
 注意したいのはお年玉の主役はあくまで子どもということ。子どもの金銭教育を手がけるNPO法人金融知力普及協会の鈴木達郎・金融知力アドバイザーは「親が全額管理することは絶対にやってはいけない」と断言する。「お金のやりくりは学校では身につかない。家庭でしか覚えられないのに、その機会を奪うことになる」という。
 もちろん、適切な使い方を子どもに覚えてもらうための仕掛けは必要だ。鈴木さんが簡単で効果的なお金の渡し方として提案するのは、お年玉を渡す際に小遣い帳や小遣い袋を一緒にプレゼントする方法だ。
 例えばお年玉が総額3万円だった場合、3分の1の1万円は子どもの口座に貯金。残りの2万円は、1回の使用上限額や小遣い帳に何を買う予定かなどを細かく書くことを条件に、子どもに任せる。「お年玉の入金額を記帳した通帳も一緒に子どもに渡して管理を任せれば、お金のやりくりを学ぶ効果はさらに高まる」と仲西さんは話す。
 大切なのは、お金の使い方をお年玉をもらった後も子に意識させ続けること。その意味でお年玉を機に、定期的な小遣いを渡し始めるのは一つの方法だろう。「欲しい時に必要額を渡す」「欲しい物を買ってあげる」ようなやり方では、お金をやりくりする力は身につかない。「少額でも定期的な小遣いこそ一番優れた金銭教育の手段」(鈴木さん)になる。
 お金の使い方を身に付けるということは、日々の暮らしや働く意味を理解することでもある。FPの豊田さんは、子どもにお金の使い方が身についたと判断した時点で「食費や家賃など家計についての家族会議を開き、子どもも参加させてみては」と話す。
 来年のお年玉は、我が家の金銭教育事始め。じっくり子どもにお金の使い方を学ばせるきっかけにしてみてはいかがだろう。

100万円貯めよう(下)口座分けて貯金先取り――財形・定期積立



給料から天引きで 取り崩さぬ自己ルール肝心
 出費を見直し、貯金に回せるお金の余裕ができたら、上手に貯(た)める方法を考えよう。おすすめは「貯金先取り方式」。毎月の給料から天引きで、勤め先の財形貯蓄や銀行の積立預金に一定額を回す方法だ。そうすれば手元に残った金額で暮らすため、自然と家計の改善につながる。100万円の目標も近くに見えてくるはずだ。
 「とりあえず年60万円を貯めることを目指そう」。神奈川県に住む自営業のAさん(男性、31)は貯金ゼロだった昨年1月、毎月の手取り収入25万円のうち、5万円を給与口座に残して、貯めていくと決めた。
口座2つ以上用意
 最初は口座の残高が5万、10万、15万円と順調に増えていったという。ところが、ある月に飲み会やスーツの購入などが重なり、貯金に回すお金に手を出してしまった。その後は貯金に手を出すのが癖になり、1年で貯まったのは12万円。60万円にはほど遠い結果となった。
 Aさんのようにうまく貯金ができない人には「給料を受け取る口座でお金を貯めようとする人が多い」とファイナンシャルプランナー(FP)の中村芳子さんは指摘する。普段からよく使う口座にお金が残ると、ついつい手が出てしまうものだからだ。
 そのため「着実に貯金をするには、口座を2つ以上用意するとよい」と中村さんは助言する。まず貯金用と出費用の口座を用意。収入を得た時は最初に貯金用口座へ決めた額を振り込み、絶対に引き落とさないルールを守っていくことが大切という。
 中でも成否を左右するのは、貯金用口座に給料から自動的に一定額が振り込まれる、自動積み立てにすること。「手間をかけず、気付けば貯まっている仕組みを作る」(中村さん)のが理想だ。
 会社員ならば、貯金用口座としてまず利用を検討したいのは財形貯蓄制度。毎月の給料やボーナスから天引きされるため、家計はそれを除いて設計すればよいからだ。
 貯めるメリットもある。利回りは銀行の定期預金などとほぼ変わりないが、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は利息が非課税になるので、その分お金が増えやすい。勤め先で手続きが必要なため、お金をすぐに取り崩しにくいこともプラスに働きそうだ。財形制度は従業員が1000人以上の企業の8割超が導入している(2009年時点)。
 給与口座から毎月一定額を定期預金に積み立てるのも一案。FPの紀平正幸さんは「給料日かその翌日に積立日を指定し貯金を先取りしよう」とアドバイスする。三井住友銀行やソニー銀行などの積立預金は毎月1000円から利用することができる。
 また、給料を複数の銀行口座に振り分けられる場合は、預金利率の良いネット銀行の口座に一定の金額を振り込む方法もある。より有利な利率で、自動積み立て同様に貯金ができるのは魅力だろう。
生活水準を一定に
 出費用口座もできれば複数用意するとよい。給料が入るメーンの口座に加え生活費専用の口座を作るという具合だ。例えばひとり暮らしで毎月の手取り収入が20万円なら、収入の4割を食費や通信・光熱費などとしてメーンの口座から生活費用口座に移す。その残高を見れば月の残りの生活費が分かる。また、普段持ち歩くキャッシュカードも生活費用口座に限れば、余計な出費はさらに防げるはずだ。
 その際に「生活費用口座のお金は毎月使い切り、繰り越さないことも重要」と、節約アドバイザーの丸山晴美さんは説く。貯金を続けるには生活水準を一定に保つことが重要。節約は大事だが、やりすぎて残ったお金を翌月に使えば「出費のリバウンド」を招く可能性もあるからだ。
 それだけに貯金を始めたら、数カ月は設定した貯金額で無理なく暮らせるかを確認することも大切だ。本当に厳しいと判断したら毎月の貯金額を減らす。その方が長続きするという。
 もちろん、貯金を楽しむことも忘れずに。時には旅行や買い物でお金を使う心の余裕は必要だ。それに適したサービスもある。
 HISでは毎月3000円から、JTBは5000円から旅行積立コースを用意している。貯めたお金はそのまま旅行代金に充てられる。田中貴金属工業や住友金属鉱山の純金積立も一定量積み立てるとジュエリーと等価交換できるタイプがある。
 貯金は失業などに対する生活の備えというだけでなく、楽しみや自分の目標を実現するために必要なこと。収入の伸び悩みなど厳しい現状はあるが、100万円貯められれば、必ず自分に自信がつくはずだ。生活や仕事に夢を描くためにも、貯金力を身に付けよう。

100万円貯めよう(上)脱「貯金ゼロ」始めの一歩


住居費、月収の3割以内 スマホは本当に必要? 失業に備え生活費「仕分け」
 収入の伸び悩みなどで、貯金を持たない人が増えている。どんな人も失業や病気で収入が途絶える可能性はあるだけに、備えはしておきたいところだ。そこでまずは100万円貯(た)めることから始めよう。貯金癖を付ければ目先の備えだけでなく、将来の生活設計もたてやすい。貯金術と家計見直しのポイントについて、2回にわたり考える。
 「貯金ゼロで大丈夫かな」。東京都内に住む会社員のAさん(男性、29)は最近、少し焦り始めている。年収は400万円弱で、月給はここ数年横ばい。ひとり暮らしで毎日外食するため、使い切っている。月々の赤字はボーナスで補填する生活だ。先日、大学の友人の結婚式に出席、そろそろ自分もと思ったものの貯金はゼロ。「生活を見直さないと結婚できないかも」
20代単身の4割
 2000年以降、金融資産ゼロの世帯が急増している。金融広報中央委員会の調査では2012年で26%で、1987年に3%台に低下していたことを考えると大幅に増えている。特に目立つのは20代(単身世帯)で、貯金ゼロは39%に上る。
 雇用保険に入っていれば職を失っても失業給付を受けられるが、自己都合で退職した場合などは時間がかかることも。それだけに「4カ月から半年は無収入で暮らせる蓄えが必要」とファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんは指摘する。
 貯蓄が100万円あれば、一人暮らしで半年程度、子どものいない夫婦の場合でも3~4カ月は暮らせそう。総務省の調査によると、失業した人の4割強が6カ月以内に再就職しているが、その期間が長期化する傾向にあるのも確か。だから、まずは100万円貯めようというわけだ。
 ただし、ハードルは低くない。1年で100万円貯めるには毎月8万円程度の貯蓄が必要。無理なくできる人はそう多くないだろう。そこで節約アドバイザーの丸山晴美さんは、独身の人は月収の1~3割、夫婦共働き世帯はそれぞれの月収の3割、妻が専業主婦の世帯は1割を目安に貯蓄しようと助言する。
 たとえば独身で月収が25万円の場合、2割に当たる月5万円程度は貯金に回すという具合。100万円到達には20カ月かかる。2年以内なら期間目標として現実的だろう。
 もちろん年2回のボーナスを生かせば、もっと早く貯められるが、金額が変動しやすいため別物と考えた方がよい。「頼ることはせず、ボーナスが支給されたら7割程度を貯金するよう心がけては」と丸山さんは提案する。
 問題は共働き世帯で月収の3割、専業主婦世帯で月収の1割という貯金原資をどう確保するか。FPなど専門家が異口同音に指摘するのは、やはり「家計簿を付け地道に無駄遣いを見つけること」だ。
基本はレシート
 といっても、毎日1円単位で細かく家計簿を付けるということではない。S&Sインベストメンツの岡村聡代表の提案する方法は簡単だ。買い物をするときは必ずレシートをもらい、1週間に一度、10以内に区分した項目別に集計。項目として収入、家賃など固定費、食費や通信・光熱費などの変動費に大まかに分類する。それだけで自分がどんなことにお金を多く使っているかが分かるという。
 FPの八ツ井慶子さんが提案する方法はさらに簡単。「食費とその他という分け方で集計すればよい。そして、その他の上位3項目をつかむ。この3項目を減らせば貯金原資が見えてくる」と話す。
 支出を項目別でみていく場合、最も割合が大きいのは家賃など住居費だろう。「住居費は月収の3割以内に抑えるのが目安」というのが専門家の一致した意見。もし、3割を上回るなら見直しを考えよう。
 変動費抑制の基本は細かな節約。外食を控え、自炊する回数を増やす。電気代は消費電力の多いエアコンや冷蔵庫、テレビ、照明が無駄に使われていないか確かめる。
 見落としがちなのは通信費だ。最近はスマートフォン(スマホ)の利用で出費が増えた人も多いだろう。だが、FPの花輪さんは「携帯電話の通信費は通話とネット料金を合わせて、月収の5%に抑えたい」と助言する。本当にスマホが必要か、使い方を見直すことも大切だ。こうして生活自体を見直すことが貯金100万円の一歩でもある。
 家計としては「固定費を30%、変動費が40%。残り30%を貯金に回せれば理想的」と岡村代表。ただ、20代は収入が少ないので、ひとり暮らしならまず収入の10%の貯金を心がける。それから徐々に割合を高めていけばよい。
 貯金を続ける最大のコツは「将来の目標をはっきりさせること」(FPの八ツ井さん)。目標が決まればお金の使い方は自然と変わる。その意味でも100万円はよい目標だろう。もちろん苦しい貯金にならない工夫も大切。30万円、50万円など小さな目標を達成したら、自分にご褒美を与える。そんな心の余裕も持ちながら、貯金を楽しんでみてはいかがだろう。

プロバイダー板挟みに

 誰でも情報を発信できるインターネットでは名誉毀損や誹謗(ひぼう)中傷も飛び交う。プロバイダー業者らは法律上、権利侵害を受けた側からの要請を受けたうえで書き込みなどを削除することができるが、表現や通信の自由との兼ね合いもあり、判断は難しい。
 ネット上の書き込みや投稿を巡っては民間団体「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」が、薬物広告や児童ポルノといった存在自体が違法の「違法情報」などを中心に民間からの通報を受理している。
 一方、名誉毀損などは刑事事件化が難しくIHCの本来の業務対象ではないが、今年半年で通報は723件。過去最高だった2010年の1287件を上回るペースだ。
 ネット上の名誉毀損や著作権侵害など民事上の権利侵害については02年5月施行のプロバイダー責任制限法が、削除要請を受けたプロバイダーやサーバー管理者によって書き込みを削除したり、発信者の情報を開示したりできるよう規定した。
 ただ、プロバイダーなど事業者側はそもそも名誉毀損の有無を法的に最終判断する立場にない。「書き込んだ側にも意見照会をするなどしたうえで、権利侵害が明らかな場合以外は原則、削除しないという立場をとっている」のが実情だ。
 例えば、実体験に基づく飲食店の批評などは判断が難しい。年間百数十件の削除要請を扱うニフティは「権利侵害を軽んじてはいないが、ユーザーに情報発信の場を提供するビジネス。ネット上の表現の自由にかかわる立場でもある」と話す。
 「アメーバブログ」を運営するサイバーエージェントでは個人が日記風に書き込めるという性質もあってか、個人情報や誹謗中傷への削除要請の対象は年間400~500件に達する。うち7~8割は要請に応じ削除するが「判断に悩む場合は削除できない」という。
 事業者側からは「当事者同士の紛争を仲介する立場を期待されているのかもしれないが、現状は法律上の位置付けも限定的で板挟み状態」と本音も漏れる。実際に内部告発を巡る削除要請に応じなかったなどとして訴えられるケースがある。
 総務省は昨年後半、プロバイダー責任制限法施行10年を控え書き込みに関する削除要請の実態調査をしたが、結果は現時点で公表されていない。非公表の理由は「実態の一部しか表しておらず誤解を招くから」(消費者行政課)というものだ。
 回答を得たのは国内プロバイダーなどの一部。ネット掲示板ではサーバーを海外で管理する場合も多い。業界の監督官庁が信頼性のある統計データすらまとめられないところに対策の難しさも浮かぶ。

格安端末が埋める格差

 「これが本当にパソコン?」。1月中旬、筑波大学の研究室では、数人の学生がわずか名刺大の小さな電子機器を物珍しそうに操作していた。IT(情報技術)業界や研究者が注目する英国発の超低価格パソコン「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」だ。ディスプレーとキーボードはつかないが、価格はたった2950円。
 英ケンブリッジ大学が支援する非営利団体が、世界の学生や子供にパソコンを利用する機会を提供することを目的に、2012年春に発売。無償基本ソフト(OS)「リナックス」をベースに部品を絞り込み、主に中国で生産する。
 筑波大の研究室では演習講義用にラズベリーパイ約30台を導入した。システム情報系准教授の山際伸一(38)は「コストパフォーマンスは抜群。先進国だけでなく、新興国でもIT教育の普及に大いに役立つだろう」と話す。ラズベリーパイの世界での販売台数は100万台を突破したもよう。現在は欧米が中心だが、関係者はアジアやアフリカでの普及に向け動き始めているという。
 超低価格パソコンの先駆けとなったのは、05年に米マサチューセッツ工科大学のグループが提唱した「100ドルパソコン」。米AMDなどIT大手や国連などが開発や普及促進で連携した。100ドルパソコンが切り開いた市場に、有力IT企業が次々に参入。サムスン電子、ノキアのほか、中国のレノボ・グループや中興通訊(ZTE)などが低価格のデジタル端末を売りさばく。
 こうした端末の低価格化や通信環境の充実が、国家・地域間のデジタルデバイド(情報格差)を急速に縮めている。九州大学教授の篠崎彰彦(51)によると、格差の大きさを示すジニ係数は、21世紀に入り携帯電話とインターネットの分野で大幅に低下した。
 途上国にとって外国製の安価な端末の普及は、自国の産業を育成する上で逆風になるとの見方もある。ただ篠崎は「実際はデジタル端末の広がりが技術や教育の水準を底上げし、ものづくりを生み出すケースも多い」と指摘する。
 実際、インドでは11年、政府がインド工科大などと超低価格のタブレット(多機能携帯端末)「Aakash(アーカッシュ)」を製品化。価格は45ドル(約4000円)で、学生向けの補助金施策も導入し、自国発端末の普及を急ぐ。
 調査会社のIDCジャパン(東京・千代田)の予測によると、13年の全世界のIT支出は前年比5・7%増の2兆1000億ドル。うち新興国は8・8%増の7300億ドルと、もはやけん引役となっている。有望市場を巡る企業の争奪戦は熱を帯びそうだ。

山を動かす(4)送金月850億円―ITが示す脱貧困の道


 大阪市で働く横田ロセル(29)は昨年11月、スマートフォン(スマホ)を使い、フィリピンの父親に10万円を送った。父はメールで届いた「送金番号」と身分証明書を質屋にある窓口に提示、お金を受け取った。
スマホで手軽に
 使ったのはソフトバンクの子会社が運営する国際送金サービス。お金はコンビニから専用の「口座」に入れておき、銀行は必要ない。同じ会社で働くメアリー・ルー・オオニシ(25)もクリスマス前に母親に送金し「とても手軽」と満足顔だ。
 スマホなどを使った送金が世界中で増えている。例えば英ボーダフォン子会社の「M―PESA」は1600万人の利用者を抱え、インターネット上を行き交うお金が月850億円にも上る。
 世界銀行によれば途上国の労働者による送金は国をまたぐものだけで年間4千億ドル。世界で行われる政府開発援助(ODA)の3倍に匹敵する規模になっている。
 途上国では富裕層でないと銀行口座が開きにくい。だがスマホが口座の代わりになることで送金は誰でも可能になる。家族は送られたお金を消費に回し、地元の経済に利益をもたらす。
 「携帯の普及がバングラデシュの農村に変革を起こした」。アジア開発銀行(ADB)副局長の山縣丞(58)は満足げだ。ADBは同国のグラミン・テレコムに3760万ドルを出融資、2千万人を超す人々に携帯サービスを提供した。その結果が農家の所得向上だ。
 カギになったのは市況情報。農家が仲買人にだまされることが減り、作物の育て方や肥料の在庫状況などもわかるようになった。関連ビジネスの拡大を含め、雇用は13万5千人増えた。
 英誌エコノミストは「新興国は現在の先進国より短い期間で豊かな生活を手に入れられる」と予測する。理由の一つはネットの普及による様々な機会の拡大だ。
 スタンフォード大などは昨年からネット教育の最新技術を活用して「人工知能入門」などの授業を無料公開し始めた。
 発端は2011年秋。同大教授のダフニー・コラー(44)が授業をネットで公開すると172カ国から受講生が35万人集まった。他大学もこれに注目、ネットでの試験やリポートで達成度を測る仕組み「MOOCs」ができた。
 途上国では高等教育への進学率が2割。教員も設備も足りないが「MOOCsが広がれば最高の知識を身につけ条件の良い仕事に就ける」と東大准教授の山内祐平(45)はみる。
「奇跡」の原動力
 「納期が迫ってきた。頑張ろう」。チャット画面で指示するのは都内のベンチャー、レックスバート・コミュニケーションズ社長の田中秀和(33)。相手はルワンダにいる技術者。田中は取引先から受注したスマホのソフトウエア開発を彼らと一緒に手がけている。
 1990年代の内戦で国民の1割以上が虐殺されたルワンダ。今は年率約7%の経済成長を続け「アフリカの奇跡」といわれている。その原動力がネット。国を挙げて専門学校の整備などを進め質の高い雇用を生む。
 国連は00年9月、「15年に貧困を半減する」との目標を掲げた。当初は達成困難とみられていたが、最近は達成の公算も大きくなりつつある。ネットとグローバリゼーション。うまくかみ合わせれば途上国のいくつかが先進国クラブの経済協力開発機構(OECD)に迎えられる日も来るかもしれない。

山を動かす(3)賢い農業革命――狭い国土言い訳にしない

 静岡市で高級イチゴ「章姫」を栽培する中嶌章嘉(60)に最近、長野県から手紙が届いた。「子供とおいしく頂きました」。2人をつなぐのはスマートフォン(スマホ)の農業体験ゲームだ。
仮想から実物に
 ゲーム開発のエルディ(東京・目黒)が配信する「畑っぴ」。仮想の農作物をインターネット上で育て、「収穫」できると産地からご褒美に実物が宅配される。イチゴの場合、肥料などアイテムを購入し、7日で収穫が可能だ。
 「中国に対抗するには何でもしないと」。中嶌は昨年、ゲームを通じ3800箱を出荷した。2万人の利用者の9割超は主婦。値段はやや高いが「消費者は農業というストーリーに対価を払う」とエルディ社長の宮崎尚登(54)は話す。
 環太平洋経済連携協定(TPP)を巡って揺れる日本の農業。ネットを通じた新しい食の流通が生産者と消費者を結ぶ。NTTドコモは昨年、スマホを使った有機野菜の宅配を始めた。事業を手掛けるらでぃっしゅぼーや(東京・新宿)を買収、6千万人の顧客と農業をつないだ。
 Q 米国に次ぐ世界2位の農業輸出国はどこ?
 A オランダ
 国土が九州ほどしかない同国の輸出額は2008年、790億ドルと日本の30倍に達した。支えたのはIT(情報技術)を駆使した農業経営だ。
 首都アムステルダムから車で40分。「フードバレー」と呼ばれるIT農業地区に植物工場が軒を連ねる。今春には東京ドーム約20個分にあたる100ヘクタールの工場もできる。
 「まるで証券会社のトレーディングルーム」。視察した三菱総合研究所主任研究員の伊藤保(45)はモニター類で一杯の制御室に面食らった。トマトでは単位面積当たり収穫量が日本の3倍だ。
 ノウハウを伝授するのは環境システム会社のプリバなど3社。海外にも手法を「輸出」し、ネットでつないでさらに効率的な栽培法を解析する。
 目指せオランダ。富士通やNECは作物の生育データを収集、農家の生産性を高める「農業クラウド」を本格化する。昨夏には富士通など14社がシステムの標準化を目指す「スマートアグリコンソーシアム」を設立。技術輸出も視野に入れる。
 「来ーい、来い来い」。大分県久住高原にある九州大の実験牧場。准教授の後藤貴文(48)がスマホを操作するとスピーカーから声が流れ、放牧牛が給餌場所に集まってくる。スマホには餌をほお張る牛が映る。後藤は「出張先のドイツからでも観察できた」と笑う。
「遠隔放牧も」
 九大とNTT西日本が進める放牧牛の遠隔飼育システムの実験現場だ。牛に付けたセンサーと牧場のカメラで1頭ずつ管理する仕組みを目指す。徹底的な省人化で大規模牧場を運営し、畜産業の担い手不足に対応する。「全国の耕作放棄地を使った遠隔放牧も可能になる」と後藤は期待する。
 日本の放棄地は埼玉県に相当する40万ヘクタール。オランダの例を見ても国土の狭さが大規模農場不在の言い訳にはならない。
 世界的にも農産物の生産性向上は喫緊の課題。国連食糧農業機関(FAO)は50年に世界人口が90億人を超え、今より1・7倍の食料増産が必要になると推計する。
 20世紀後半の50年、穀物生産は品種改良と大規模生産で人口の伸びを上回った。だが次の半世紀、ネットを駆使しさらに生産性を高める「賢い農業革命」が人類共通の課題になる。

山を動かす(2)まだ見えぬ職業、不遇の世代、好機はそこに



 コンサルティング会社アクセンチュアの工藤卓哉(38)は16日、福島県の会津大にいた。コンピューターサイエンスを学ぶ170人に自分の仕事について特別講義するためだ。肩書はデータサイエンティスト。米誌ハーバード・ビジネス・レビューは「21世紀で最もセクシーな職業」と呼ぶ。
データ読み解く
 交流サイト(SNS)、車や家電のセンサー、ICカード……。増殖するデータの塊を解きほぐし経営に役立つ法則や仮説を導き出す。製品寿命はいつ尽きる? クレーム発生の兆しは? 統計学とデータ処理を絡め、未来を読む。
 データ分析で医療改革を進めるニューヨーク市長、マイケル・ブルームバーグ(70)のもとで腕を磨いた。「力を生かしたい」。そう考え東日本大震災後、アクセンチュア日本法人に入社した。
 世界に存在するデータのうち、人類が活用できているのは0・5%。特に日本はデータサイエンティストが不足し、推定で千人もいない。
 「膨大なデータから何を見つけるかが醍醐味。経済が縮小し、内向きの思考に陥りがちな日本を変えよう」。若者への講義に熱がこもる。
 米デューク大教授のキャシー・デビッドソン(63)によると、いま、小学校に入る子供の65%は現在まだない職業に就くという。未来に向け助走を始めたデジタル世代は、日本にも多い。
 東大病院の研修医、瀬尾拡史(27)にはもうひとつの顔がある。CG(コンピューターグラフィックス)の制作者だ。診断や教育にも使えるリアルさで、臓器や細胞などを3次元で描く。
 子供の時、体内を映像化した番組に衝撃を受けた。「いつか自分もつくる。だが日本に専門教育機関はない。ならば自力で身につけよう」。まず2005年東大医学部に入り、翌年にはIT(情報技術)を教えるデジタルハリウッドに通った。
 2年間の研修医生活を終え、4月からはCG事業のため設けた会社サイアメントの社長業に専念する。「難解な科学の世界を誰にでもわかるようにする。20~30年後に産業になれば」。世界中の医師が画像をネットで共有し、知識を高め合う未来も見すえる。
 16歳で渡米、ネット関連の会社をいくつも設立した経験がある伊地知天(29)。11年夏に震災後の東北へボランティアに出かけた。目前に広がる被災の風景。再び起業家精神に火が付いた。
 12年に立ち上げたのがcreww(クルー)だ。起業家が事業のアイデアを公開し、資金を出す投資家、助言役となる経営者などを結びつけるサイトを運営する。
ビジネスふ化器
 「イノベーションであふれる社会をつくりたい」。年代や経歴もばらばらな人がネットで交わるコラボのしくみが新ビジネスのふ化器になる。
 米シスコシステムズが18カ国の18~30歳1800人を調べたところ、5人に2人はスマートフォンがつながらないと「不安」と答えた。家族や友人との食事中も使い続けるとの回答も46%に達した。単なる「ネット依存」ではない。彼らは事業計画づくりも資金調達もネットで可能な時代の先頭に立っている。
 世界では7500万人の若者が失業中とされる。不遇の世代と悲観しても始まらない。デジタル世代の柔軟な発想で、新たな雇用を生み出していく時代だ。

山を動かす(1)石油が無くても



ゲーム1000年枯渇を克服
 「月面着陸級の大胆なアイデアを求む」。エネルギー問題などを解決するため、世界中の知恵を募るインターネット会議が最近発足した。名前は「Solve for X」。主催者は石油会社でも国連でもない。米グーグルだ。
「何でも解決」
 二酸化炭素の排出量を差し引きゼロでなくマイナスにするバイオ燃料、原料となるエネルギー作物の安定的生産法……。
 集まってくるアイデアを整理し、助言するのは米マサチューセッツ工科大教授のニコラス・ネグロポンテ(69)ら学者や起業家。だが最高経営責任者(CEO)のラリー・ペイジ(39)は「主役はあくまで人々。ネットという共通のインフラを使えば解決できないものはない」と話す。
 ネットには無限の可能性が広がる。英誌エコノミストの試算ではデジタル情報の蓄積量は世界の経済成長の4倍、コンピューターの演算能力は9倍の速さで増している。
 ただ、今生きている我々はこれらの情報や新技術が今後何を生むか、どう使われるかを予測し切れない。明かりをともすために生まれた電気はパソコンを生んだ。グーグルが狙うのは今後起きる様々な革新の舞台を同社に引き寄せることだ。
 壮大な構想を描くのは「巨人」だけではない。千年続くゲーム――。提唱するのは米ゲームデザイナーのジェーン・マクゴニガル(35)だ。
 単なるゲームではない。ゴールはエネルギー問題の解決。ネットで世界中から参加者を募り、節電のアイデアを投稿したり企画した節電の催しへの参加を呼びかけたりして内容が評価されればポイントがつく。プレー期間は一生だ。
 プレーをするのは1年に1日。だが、このゲームを人類が続ければ「石油も千年間、枯渇せずにすむかも」と言う。
 「人類が有史以来克服できない問題。それを解決するのはゲームしかない」。マクゴニガルがそう考えるようになったのは2009年。オンラインゲーム「ヘイロー3」で敵の異星人を通算100億人倒す記録が生まれた。
達成感を共有
 あくまでゲームの話だが、マクゴニガルは「ゴールを目指して数百万人が取り組んだことに意義がある」と思った。達成感や高揚感を共有できるのがゲームなのだ。
 千年ゲームにはひな型がある。「石油のない世界」。07年に米ゲームデザイナー、ケン・エクランドが開発したこのオンラインゲームは石油がなくなった状況を想定して解決策を募る。参加者は石油が枯渇した後の生活シナリオをたて、動画などを投稿する。
 07年4月から32日間の期間中、12カ国から約2千人が参加した。ゲームを経験すると、参加者は日常生活でも節電を心掛けるようになっていったという。
 「人間は本来、遊び好きな動物。ゲームは社会問題との有効な接点になる」と話すのは野村総合研究所の主席コンサルタント、桑津浩太郎(48)。ゲームを問題解決に使う取り組みは最近、「ゲーミフィケーション」と呼ばれ、効用を研究する動きが増えてきた。今この瞬間もネットを使った新たな実験は始まっているかもしれない。