静岡市で高級イチゴ「章姫」を栽培する中嶌章嘉(60)に最近、長野県から手紙が届いた。「子供とおいしく頂きました」。2人をつなぐのはスマートフォン(スマホ)の農業体験ゲームだ。
仮想から実物に
ゲーム開発のエルディ(東京・目黒)が配信する「畑っぴ」。仮想の農作物をインターネット上で育て、「収穫」できると産地からご褒美に実物が宅配される。イチゴの場合、肥料などアイテムを購入し、7日で収穫が可能だ。
「中国に対抗するには何でもしないと」。中嶌は昨年、ゲームを通じ3800箱を出荷した。2万人の利用者の9割超は主婦。値段はやや高いが「消費者は農業というストーリーに対価を払う」とエルディ社長の宮崎尚登(54)は話す。
環太平洋経済連携協定(TPP)を巡って揺れる日本の農業。ネットを通じた新しい食の流通が生産者と消費者を結ぶ。NTTドコモは昨年、スマホを使った有機野菜の宅配を始めた。事業を手掛けるらでぃっしゅぼーや(東京・新宿)を買収、6千万人の顧客と農業をつないだ。
Q 米国に次ぐ世界2位の農業輸出国はどこ?
A オランダ
国土が九州ほどしかない同国の輸出額は2008年、790億ドルと日本の30倍に達した。支えたのはIT(情報技術)を駆使した農業経営だ。
首都アムステルダムから車で40分。「フードバレー」と呼ばれるIT農業地区に植物工場が軒を連ねる。今春には東京ドーム約20個分にあたる100ヘクタールの工場もできる。
「まるで証券会社のトレーディングルーム」。視察した三菱総合研究所主任研究員の伊藤保(45)はモニター類で一杯の制御室に面食らった。トマトでは単位面積当たり収穫量が日本の3倍だ。
ノウハウを伝授するのは環境システム会社のプリバなど3社。海外にも手法を「輸出」し、ネットでつないでさらに効率的な栽培法を解析する。
目指せオランダ。富士通やNECは作物の生育データを収集、農家の生産性を高める「農業クラウド」を本格化する。昨夏には富士通など14社がシステムの標準化を目指す「スマートアグリコンソーシアム」を設立。技術輸出も視野に入れる。
「来ーい、来い来い」。大分県久住高原にある九州大の実験牧場。准教授の後藤貴文(48)がスマホを操作するとスピーカーから声が流れ、放牧牛が給餌場所に集まってくる。スマホには餌をほお張る牛が映る。後藤は「出張先のドイツからでも観察できた」と笑う。
「遠隔放牧も」
九大とNTT西日本が進める放牧牛の遠隔飼育システムの実験現場だ。牛に付けたセンサーと牧場のカメラで1頭ずつ管理する仕組みを目指す。徹底的な省人化で大規模牧場を運営し、畜産業の担い手不足に対応する。「全国の耕作放棄地を使った遠隔放牧も可能になる」と後藤は期待する。
日本の放棄地は埼玉県に相当する40万ヘクタール。オランダの例を見ても国土の狭さが大規模農場不在の言い訳にはならない。
世界的にも農産物の生産性向上は喫緊の課題。国連食糧農業機関(FAO)は50年に世界人口が90億人を超え、今より1・7倍の食料増産が必要になると推計する。
20世紀後半の50年、穀物生産は品種改良と大規模生産で人口の伸びを上回った。だが次の半世紀、ネットを駆使しさらに生産性を高める「賢い農業革命」が人類共通の課題になる。
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