2013年1月31日木曜日

格安端末が埋める格差

 「これが本当にパソコン?」。1月中旬、筑波大学の研究室では、数人の学生がわずか名刺大の小さな電子機器を物珍しそうに操作していた。IT(情報技術)業界や研究者が注目する英国発の超低価格パソコン「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」だ。ディスプレーとキーボードはつかないが、価格はたった2950円。
 英ケンブリッジ大学が支援する非営利団体が、世界の学生や子供にパソコンを利用する機会を提供することを目的に、2012年春に発売。無償基本ソフト(OS)「リナックス」をベースに部品を絞り込み、主に中国で生産する。
 筑波大の研究室では演習講義用にラズベリーパイ約30台を導入した。システム情報系准教授の山際伸一(38)は「コストパフォーマンスは抜群。先進国だけでなく、新興国でもIT教育の普及に大いに役立つだろう」と話す。ラズベリーパイの世界での販売台数は100万台を突破したもよう。現在は欧米が中心だが、関係者はアジアやアフリカでの普及に向け動き始めているという。
 超低価格パソコンの先駆けとなったのは、05年に米マサチューセッツ工科大学のグループが提唱した「100ドルパソコン」。米AMDなどIT大手や国連などが開発や普及促進で連携した。100ドルパソコンが切り開いた市場に、有力IT企業が次々に参入。サムスン電子、ノキアのほか、中国のレノボ・グループや中興通訊(ZTE)などが低価格のデジタル端末を売りさばく。
 こうした端末の低価格化や通信環境の充実が、国家・地域間のデジタルデバイド(情報格差)を急速に縮めている。九州大学教授の篠崎彰彦(51)によると、格差の大きさを示すジニ係数は、21世紀に入り携帯電話とインターネットの分野で大幅に低下した。
 途上国にとって外国製の安価な端末の普及は、自国の産業を育成する上で逆風になるとの見方もある。ただ篠崎は「実際はデジタル端末の広がりが技術や教育の水準を底上げし、ものづくりを生み出すケースも多い」と指摘する。
 実際、インドでは11年、政府がインド工科大などと超低価格のタブレット(多機能携帯端末)「Aakash(アーカッシュ)」を製品化。価格は45ドル(約4000円)で、学生向けの補助金施策も導入し、自国発端末の普及を急ぐ。
 調査会社のIDCジャパン(東京・千代田)の予測によると、13年の全世界のIT支出は前年比5・7%増の2兆1000億ドル。うち新興国は8・8%増の7300億ドルと、もはやけん引役となっている。有望市場を巡る企業の争奪戦は熱を帯びそうだ。

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