2013年1月31日木曜日
格安レンタカーなぜ急増?――「効率よく借りたい」多く
厳しい給油所、経営補う
「格安料金を打ち出すレンタカー店をよく見掛けるね。1日借りて3千円を切るという看板もあったかな」。友人の言葉に探偵、松田章司が首をかしげた。「確かに安い。でも車離れが指摘される今、なぜ急に増えるんだろう。調べてみるか」
大手の半額
まず向かったのは「100円レンタカー」を全国で約210店舗運営するカーベル(東京都中央区)。小型車なら10分間100円単位で借りられ、12時間3000円などの長時間プランもある。「普段使っている大手レンタカー会社の半額程度か」。章司は驚いた。
「中古車を使っているのが格安料金のポイントです」と、レンタカー事業部長の和作克宣さん(50)が教えてくれた。同社は中古車販売店の運営支援などが本業だが、長引く不況や車離れなどで中古車販売が落ち込んだ。積み上がった車両在庫を生かす新規事業だ。店舗は自動車整備ができる施設に併設し、車両の点検・修理も怠らない。
「どういう人が使っているのだろう」。章司は店舗を訪れた人に聞いてみた。「営業車として使っています。乗り心地は中古でも全く問題ありません」と会社員の林田亘さん(32)。経費節減のため社用車を必要最低限しか持たない企業も増えてきた。使う側にとっても業務の繁閑に応じて借りる方が効率的だ。
店舗数はこの1年で5割増えた。もちろん週末の観光目的や、通院や買い物で使う人も目立つという。高級車や最新エコカーなどをメニューにそろえる大手レンタカー会社に対し、低料金や使い勝手を優先したい消費者ニーズに絞る戦略が奏功しているようだ。
レンタカー市場全体もじわじわ拡大している。矢野経済研究所(東京都中野区)の調査によると、2013年の国内レンタカー市場規模は5100億円と、4年前より約9%伸びる見通し。「格安もあって新しいレンタカーの使い方が広がっていますよ」とカーベルの和作さん。「車を買わずに借りる生活スタイルが浸透してきたのか」と章司。
ガソリン低迷
全国に1000店近くを展開する「ニコニコレンタカー」の運営会社、レンタス(横浜市)も訪ねてみた。同社も中古車を活用しており、小型車を12時間借りても2525円。「実は全国の給油所がフランチャイズ加盟し、急速に店舗数が広がっているのです」と専務の小林修さん(63)。
この1年で店舗数は3割増えた。全店のうちおよそ7割が給油所に併設された店舗だという。給油所はガソリンの販売競争が厳しいうえに石油価格高騰で収益が悪化。エコカーの登場もあって、昔よりガソリンが売れにくくなってきた。
「とはいえ新事業はリスクも大きいのでは」。章司が尋ねると「既存の設備や人員を使うので、初期投資や固定費の負担が小さくて済みます」と小林さん。給油所には車両の保守点検設備や駐車スペースなどが備わり、受付業務も手が空いた従業員で十分対応できる。さらに給油所経営特有の事情もあるという。
そこで給油所の業界団体、全国石油協会(東京都千代田区)の渡部勝典さん(58)にも話を聴きに行った。「来年1月末に国の規制が強化され、地下に埋めてある古い石油タンクは補修などの対策が必要になるのです」。タンクが腐食して石油が漏れ出す事故が頻発し、アスファルトなどによる補修や漏れを感知するセンサー設置などの対策が必要という。補修工事には数百万円の費用がかかるようで、厳しい給油所経営にとっては新たな収益源の確保が課題になっている。
資源エネルギー庁によると今年3月末時点の給油所数は3万8千カ所弱。ピーク時の1995年より4割減った。レンタカー利用者が給油すればガソリン販売を増やせるので、一石二鳥の経営というわけだ。
「余剰中古車の活用と給油所の経営難。課題克服の新たなビジネス」。章司がカフェで格安レンタカー店が増えている事情をまとめていると、石油流通などに詳しい東洋大学教授の小嶌正稔さん(54)が声をかけてきた。「給油所のように消費者の暮らしに身近な基盤があると、他のビジネスにも生かしやすいのです」
危機が原動力
高齢化が進み、自宅から離れた場所で買い物をしたり、サービスを利用したりしにくくなることも追い風になっているという。「実は家庭向けに伸びているウオーターサーバーの商売も、意外な販路で伸びていますよ」と小嶌さん。
章司は宅配水大手のアクアクララの事業を手掛けるレモンガス(神奈川県平塚市)に聴いた。「プロパンガス宅配のノウハウや販路を生かしているのです」(広報)。実は同社以外にも多くのガス会社が宅配水ビジネスに参入していることがわかった。ミネラルウオーターもプロパンガスも「重い製品を家庭に届ける」点では同じ。プロパンガス市場が縮小傾向で新たな「収益の柱」の育成が欠かせなくなっているという。
「危機が新ビジネスの原動力か」。章司は経営史に詳しい一橋大学教授の橘川武郎さん(61)にも意見を求めた。「産業には寿命があります。長寿企業は多角化に成功しています」
例えばデジタルカメラの普及で様変わりした写真市場。富士フイルムはデジカメを開発しながら高機能材料や医療関連などの分野へ事業領域を広げていった。これに対して米大手のイーストマン・コダックは、事業の構造転換が遅れ経営破綻に追い込まれた。「手遅れにならないよう、ピンチの時は危機感を持って経営改革を進めることが重要です」と橘川さん。
「うちの事務所は先行き大丈夫だろうか」。事務所に戻った章司がつぶやくと、所長が胸を張った。「経済調査まで手を広げて多角化しているから、意外と不況に強いんだぞ」
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車離れ、中古車も打撃?
エコカー普及政策も廃車促す
若者を中心とした「車離れ」が指摘されるなか、国内の中古車市場も縮小傾向にある。日本自動車販売協会連合会(自販連)によると、2011年の中古車登録台数(軽自動車は除く)は377万台と、5年前より25%減った。足元では被災地での需要増などから販売台数はやや回復しているものの、新車販売が低調で中古車の下取りが減り、販売も鈍るという構図が続いている。
特殊要因が中古車の流通量を一時的に減らしたこともある。08年の北京五輪開催前には、中国での建設ラッシュを背景に金属価格が急騰。買い手がつきづらそうな車は解体して、鉄やアルミのスクラップとして売りさばいた。ただ建設が一段落すると需要は落ち込み金属価格は元に戻った。
09~10年にエコカー普及のため実施された「スクラップインセンティブ」という政策も流通量を減らした。登録から13年を超える車を廃車にしたうえで環境対応車に買い替えると、国が最大25万円の補助金を出す仕組み。まだ乗れる車でも、下取り価格が安い場合は多くがスクラップとなった。
まだ使える日本製中古車の有効活用策として、格安レンタカーのようなアイデアも必要になりそうだ。
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