2011年5月15日日曜日

プロの年金運用、個人に役立つ、ヒント探そう――身の丈に合わせて…。

 長期で安定的にお金を増やすことが狙いの公的年金や企業年金。その手法には、お金の運用のセオリーといえるものが多く含まれている。自分の運用のヒントになるものがないか、探してみよう。
 「年金は成績の悪いときだけ国会で批判されたりするので、運用が下手なイメージがある。しかし実際には着実に資産を増やしている」(みずほ証券の瀬川剛エクイティストラテジスト)。プロの間ではこうした声が多い。
分散・配分が大切
 グラフAは公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と、企業年金の元加入者などの資金を運用する企業年金連合会(PFA)の運用成績だ。
 過去15年ほどをみると1990年代後半の金融システム不安、2000年からのITバブル崩壊、07年度からの世界金融危機などが続いた。運用には厳しい時代で、日経平均株価は半値になっている。
 しかし2つの年金の成績は4~5割増。この間の消費者物価はほぼ横ばいなので、実質的にも価値を着実に増やした。個人もやり方次第ではこうした成績が残せたはずだ。どうすればよかったのか。
 経済評論家の山崎元さんは「国内外の株式や債券に幅広く分散投資していた要因が大きい」と話す(資産配分はグラフB)。株式が下落するときは、景気悪化時に価格が上がりやすい債券がカバーするなど、補い合った結果だ。
 世界金融危機の07~08年度には下落しているが、日本株だけの場合より下落率は大幅に低い。分散していると、特定の資産に集中投資している場合に比べて値動きをなだらかにしやすいことがわかる。
 「株式はリスクも高い一方、長期的には高い上昇が見込める」(投資評論家の岡本和久さん)。2つの年金の成績を見ると、株式の比率の高いPFAは累積の伸びがやや大きいが、値動きの変化も大きいことがわかる。個人も自分の年齢や状況に応じて、自分のとれるリスクを考えながら配分を決めたい。
 「外貨建て投資は金利が高いから有利」と単純に思わないことも重要。金利の高い国はインフレ率も高いことが多い。インフレ率が高ければそのお金で買えるモノが減り、価値が下がる。「為替は2つの国の通貨の交換価値なので、長期的には高金利=高インフレ国の通貨は下落するのがセオリー」(龍谷大学の竹中正治教授)だ。
 このため「長期的な成績の見通しは、国内債券も外国債券も同じと考えるのが基本」(企業年金にコンサルタントをしている格付投資情報センターの川村孝之フェロー)。GPIFも「短期金利の差は、長期では外貨の為替下落で相殺されると想定している」(陣場隆・調査室副室長)。
 グラフCで見ると過去30年の国内債券と外国債券の成績はほぼトントン。この間ずっと外国債券の方が金利が高かったが、ときどき大幅な円高が起こり外国債券の成績が下落した結果だ。どちらが有利かは時期によるとしかいえない。
 様々な資産の値動きの予測は困難なので、外貨建て資産を一部持つことは重要。しかし「高金利=有利」と決め込んで過度に比率を高めることには注意したい。
 相場観に頼りすぎず機械的にリバランス(当初決めた資産ごとの配分の比率に戻すこと)することも年金運用の基本。例えば株価の下落が続いて最初に想定した株式の比率が下がりすぎた場合、債券を減らして株を買い、元の比率に戻すことだ。
 野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザーの山口登さんは01年当時、JTBの企業年金の常務理事。9月11日の米国での同時テロで株価が暴落、株の比率が当初の想定より大きく下がった。
 本来はリバランスで株を買い増す局面だったが「戦争になるかも」とためらった。「しかし、やはりルールは守るべきだ」と株を買い増したのが9月20日。01年は翌21日を底にして株価は回復し、結果的にリバランスは成功だった。
 金融危機の07~08年度の株の暴落時も多くの企業年金が悩んだ。「きちんとリバランスを実施して株の比率を戻した」(PFAの浜口大輔理事)という年金もあったが、かなりの企業年金が、先行きの不透明さから株の比率を戻すことを先送りした。「そういう年金は、09年度の株価の回復局面についていけなかった」(川村さん)
インデックス型を
 リバランスは本来、当初の値動きの変動率(リスク)を維持するのが狙いで、必ず成績が向上するわけではない。ただし長期ではリターンも高まることが多かった(グラフD)。「下げた資産はいずれ上がる」ことが起きがちだからだ。頻繁ではなく定期的に1~3年に1度くらい実施する方が効果が高かった。
 個人は、運用者の腕で市場平均を上回ることを目指すアクティブ運用に目を引かれがち。しかしGPIFでは運用資産の約8割が、株価など様々な指数に連動することを目指すインデックス運用だ。「アクティブ運用で継続的に市場平均を上回ることは容易ではない」(GPIF)として、コストが安いインデックス運用を中心にしている。
 企業年金にはアクティブ運用が過半のところも多いが、これは規模が大きいためアクティブ運用のコストを比較的低くできる事情もある。山崎さんは「個人が買えるアクティブ投信の手数料はかなり割高。個人はインデックス投信主体の方がいい」と話す。
 また、多くの年金は新興国の株式の比率を過度に高めていない。変動が激しいことだけが要因ではなく「成長期待が大きい銘柄はすでに割高になっていることが多く、高いリターンが得られるとは限らない」(岡本さん)からだ。
 一般的な企業年金では新興国を組み入れていないことも多く、組み入れる場合も「世界の時価総額に占める比率と同じ15%程度に抑えるのが一般的」(川村さん)。ただし、個人でも若くてリスクが取れる場合は、比率を多めにするという選択肢はある。
 もちろん、年金の手法がすべて正しいわけでもなく、外国債券の収益率を国内債券より高く見積もる企業年金もあるなど、考え方も完全に一律ではない。個人は自分の考えや状況にあう手法を選び、ヒントにしたい。

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