取り崩し 金額より「率」を
定年退職した後、それまでためたお金をどう運用するか。リタイア生活の資産運用は、現役時代と目標やリスクの取り方が違ってくる。大切なのは増やすことよりも、なるべく減らさず長持ちさせること。老後資金を運用しつつ細く長く使うコツを探った。
「定年退職後の資産運用は、増やすことが目標だった現役時代と違って“減らさずに取り崩す”ことが目標」――。フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史さんはこう話す。年金生活では不足分を補うために貯蓄を取り崩す人が多い。60歳男性が平均余命まで生きると、貯蓄を取り崩しつつ暮らす期間は約23年になる。
拙速な運用避けて
老後資金の主体は貯蓄と退職金だ。総務省「家計調査」によると、2010年の50代(2人以上の勤労者世帯)の貯蓄残高は平均約1600万円。定年時の平均的な退職金は、09年調査で約2180万円(中央労働委員会「賃金事情等総合調査」)だった。大卒社員では平均約2550万円。合計4000万円前後になるのが一般的なようだ。
ファイナンシャルプランナー(FP)の深野康彦さんは「退職金はすぐに運用しなければならないと考える人が多い」と指摘。「数カ月は定期預金にして、ゆっくり使い道を考えよう」と助言する。
老後資金は運用するお金としないお金を分けることが最初の一歩だ。深野さんは「元気で活動的な60代に使うお金は全体の45%くらい。すぐ使うので運用しないこと」と忠告する。70代に30%、80代以降に25%を振り分け、これが運用資金になる。
FPの神戸孝さんは「普段の生活資金と、子どもの結婚資金援助など何かに使う“ゆとり資金”、相続も見据えた“残す資金”に3分割しよう」と提案する。生活資金は半年~1年分を目安に、引き出しやすさを最優先して普通預金など。ゆとり資金は使う際に減っていては困るので債券や定期預金など安全資産にする。病気など万一の時には使うが、何もなければ子どもに残す資金は長期運用に回す。
こう考えると、リタイア後でも運用期間は10年以上を見込める。では目標利回りの目安はどう考えるか。神戸さんは「リタイア後、最大のリスクは物価上昇」とみる。手持ち資産の運用利回りは物価上昇率を上回ることが目標だ。
「今はデフレで実感がないが、物価上昇に備えた運用利回りは資産全体に対して年3%程度が目標」(神戸さん)。深野さんも年2~3%を目安にする。運用するお金は総資産の半分ほどだ。運用しないお金を元本割れしない定期預金か個人向け国債にする場合、運用分は年5%程度の利回りを目指すことになる。
グラフAは深野さんと神戸さんが提案する資産配分だ。深野さんは日本株と国内債券の利回りの低さを新興国株や金で補う。「運用資金は一度に全額投下せず、せめて1年くらいかけて徐々に資産配分を完成させる。資産だけでなく時間の分散も大切」と話す。神戸さんは先進国債券が多めで、世界の不動産投資信託(REIT)、金など商品も組み入れる。1年に一度は資産配分を見直すことも必要だ。
機動性で急落警戒
一方、FPの前川貢さんは「振り返ると3~4年に一度くらいは市場が急落している」と指摘。リスク商品の価格が急落したときに機動的に資産を守れるよう、売却・換金しやすさを重視して、資産を重点的に預ける「本丸」の運用商品を決める。「例えば、ある程度利回りが高いけれど株式よりもリスクが低い先進国の国債などに投資する投信を“本丸”とし、状況に応じて一部を新興国株や商品など値動きが激しい資産に短期間投資し、利回りを上げるのも一案」(図B)という。
野尻さんは退職後の人生を区切り、前半と後半で運用スタイルを変えることを提案する。ポイントは前半の「定率取り崩し法」。取り崩す金額でなく、資産残高に対して取り崩す割合を決める。
なぜ金額でなく「率」か。取り崩す金額を固定すると、運用環境が悪く資産が目減りしたときに、残高に対して大きな割合を取り崩すことになり、その後の運用で損失を取り戻すのが難しくなるからだ。例えば毎年、資産の4%を取り崩すと決める場合、平均して利回り3%で資産を運用できれば、資産の実質的な目減りは平均1%ですむ。
4000万円を運用せずに毎年4%取り崩した場合と、3%の利回りで運用しつつ4%取り崩した場合を比べるとどうなるか。運用しない場合、取り崩す金額は最初160万円だが、15年後には約90万円に減り、資産残高も15年後には約2200万円になってしまう。運用しつつ取り崩すと、取り崩し額は当初約165万円で、15年後には約141万円、資産は約3400万円残る計算だ(図C)。
野尻さんは資産の取り崩しが前提のリタイア後の運用では、毎月分配型投信が便利だという。毎月安定して分配金が出れば、売却する手間がいらないためだ。ただ「低格付け債券や新興国債券など値動きが激しい投信だけでは、取り崩しながらの長期運用に向かない」(野尻さん)。
体力や判断力が衰えるかもしれない後半は全額を元本割れがない安全資産にする。ここからは定額取り崩しでもいい。図Cをみると75歳から毎月12万円ずつ取り崩しても98歳まで持つ。
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