2011年7月3日日曜日

11年度税制改正、資産運用・贈与で優遇――税務申告強化へ罰則も

金地金売却、税務署に情報
 2011年度の税制改正法案のうち民主、自民、公明の3党が合意した項目が切り出され、6月下旬に国会で成立した。証券優遇税制の延長のほか、年金受給型生命保険金について00~05年分の所得税の納め過ぎ分の特別還付策が盛り込まれるなど、資産運用・贈与での優遇が目立つ。半面、所得の捕捉強化や、確定申告に絡む罰則など気になる改正点もある。個人のマネー生活に関係する税制改正を点検する。
 「抜本改革を先送りする一方、与野党が合意できる項目を慌てて詰め込んだ感じだ」――。税制改正を長年ウオッチしてきた税理士の山本守之さんは今回の税制改正を辛口気味に評する。確かにそうした面は拭えないが、個人のマネー生活から見ると見逃せない改正項目も少なくない。直ちに、あるいは12年から適用される改正も多く、知っておくのが賢明だ(表A)。
証券優遇は延長
 【資産運用・保険】 上場株式や公募株式投信の売却益、配当金、分配金への課税については、現在10%の軽減税率が適用されている。この証券優遇税制が13年末まで延長される。「早く本来の20%課税に戻すべきだ」との意見はあるものの、株式相場の先行き不透明感は強く、当初案通りの延長が決まった。
 デリバティブの店頭取引の課税方法が12年から申告分離課税となるのも注目点だ。
 例えば、個人になじみ深い外国為替証拠金取引(FX)には取引所取引と店頭取引の2種類がある。取引所取引は他の所得と合算しない「申告分離課税」(税率は20%)。利益よりも損失が多くて引き切れない損失が残る場合は、確定申告をすれば、損失額を3年間(例えば11年に生じた損失は12~14年)にわたり繰り越すことができ、翌年以降3年間の利益と相殺(損益通算)できる。
 ところが店頭取引の場合、他の所得と合算する「総合課税」となり、高所得者は最高で50%(所得税と住民税の合計)の税率が適用されてきた。他の雑所得(外貨預金の為替差損益、公的年金、企業年金など)との間に限り損益通算ができるが、損失は翌年に繰り越せなかった。今回の改正ではこの違いをなくし、店頭取引も申告分離課税になる。当然、「総合課税の対象の雑所得とは損益通算できなくなる」(税理士の野水鶴雄さん)。
 資産運用関連では、投資家にプラスとなる改正が目を引くが、気になる改正もある。12年から金地金、金貨を取引業者に売却する場合、その売却額の情報が業者の「支払調書」として税務署に提出される。1回の売却額が200万円以下の場合は提出されないが、多額の売却額がある人は税務署に情報を把握される。金の売却益にはもちろん税金がかかる。金価格高騰の中で課税漏れが起きないようにするため、財務省・国税庁では調書新設に踏み切った。
 生命保険でも重要な改正がある。死亡保険金を年金の形で受け取る生命保険について、2000年から05年分の納め過ぎの所得税を12年6月29日までに手続きすれば還付される。
 最高裁判所が昨年7月、このタイプの生命保険金について、相続税と所得税の両方を課税するのは「二重課税で違法」との判決を下したことを受けた措置。既に国は徴収し過ぎた原則06年分以後の所得税の還付手続きを実施。今回は特例的に00年分から05年分までを還付する。
土地も特例対象に
 【贈与・寄付・住宅】 贈与税では父母、祖父母などから住宅購入資金をもらう際に特別に適用される非課税枠(住宅取得等資金の贈与の特例、今年は1000万円)の対象に、マイホームの新築に先立って取得する土地が加わった。ただし、贈与の年の翌年3月15日までに新築する必要がある点に注意。
 寄付金税制も改正された。認定特定非営利活動法人(NPO法人)などへの寄付金について、今年の寄付分から税額控除が可能になった。高齢者による住宅のバリアフリー改修工事も税額控除が受けられるが、12年分は今年分より上限額が5万円低くなる。
 【申告・罰則】 申告手続きの改正も目立つ。給与収入が2000万円を超える人や給与・退職金以外の所得が20万円を超える人は確定申告義務があるが、還付の場合は2月16日の申告開始に先立ち1月から申告できるようになる。申告義務のない人は既に1月から還付申告が可能で、これに合わせた。
 年金所得者に確定申告不要制度を導入する。公的年金収入が年400万円以下で、年金以外の所得が20万円以下の年金所得者は申告しなくてもよい。ただ医療費控除などを受ける場合は申告が必要だ。
 一方、故意に確定申告書を提出せず脱税した人に対する罰則が新設された。FX取引などで多額の利益を得たのに申告せず、故意に税金を免れる人が目立つのに対応したという。
納税者の権利明文化など先送り
 表Bに先送りとなった税制改正の主な項目をまとめた。難色を示す向きが意外に多いのが国税通則法の抜本改正。納税者権利憲章の策定や税務調査の事前通知、納税者の更正請求可能期間の延長などが柱だが、これらが実施されると「税務署の現場の仕事は確実に増える」(税理士の岡田俊明さん)。そこで「税務署関係者までが与野党に慎重審議を働き掛けている」(民主党関係者)ともいう。
 今回決まった税制改正は、罰則創設や税務調査の強化が盛り込まれている。納税者の権利の明文化が先送りされる半面、罰則の創設などが先行することに批判の声も強い。政府税制調査会専門家委員会委員の三木義一青山学院大教授は「国税通則法改正は何より必要」と語る。今後の国会の行方を見守りたい。

○給与所得控除の上限設定(高額所得者の増税)〓○成年扶養控除(23歳~69歳の親族対象)の縮減〓○特定支出控除の見直し(給与所得者の実額控除拡大)〓○退職所得課税の見直し(短期勤務の役員への課税強化)
○相続税の基礎控除の引き下げと最高税率引き上げ〓○贈与税の税率構造の緩和と相続時精算課税制度の改正(若年世代への資産の早期移転を狙う)
○地球温暖化対策のための税制創設〓○国税通則法の抜本改正

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