自分や親が高齢になると、生活費の引き出し、医療費の支払いなど日常的な金銭管理をどうするか、という問題が起こる。特に判断能力の低下に直面したり、外出が難しくなったりした高齢者にとっては切実な問題だ。住み慣れた場所で暮らし続けるために、公共サービスを利用して金銭管理をする方法もある。
「残高を確認してサインをお願いします。通帳は持って帰って保管しておきますね」。7月上旬、東京都江東区内にある都営住宅の一室で、同区社会福祉協議会(社協)の生活支援員、沢沙紀さんがこの部屋に暮らす坂本登志子さん(80)に声を掛けていた。
坂本さんは一人暮らし。心臓に持病を抱え足も不自由なため、ひとりで買い物や銀行に行くのが難しい。蓄えの取り崩しと年金収入によるやり繰りに不安を覚え、3年前から同区社協の「日常生活自立支援事業」を利用する(表A)。
「小口の金銭管理サービスは在宅高齢者の利用ニーズが大きい」と指摘するのは、社会福祉士の和賀井英雄さんだ。親族や信頼できる知人が近くにいない独居高齢者、同居の子どもが親の年金を使い込んでしまうような世帯では特に必要度が高いという。
坂本さんも隣県に姉がいるが、お互い高齢で行き来はない。代理人届を出した口座の通帳を同区社協に預け、毎月1回7万円を生活費として持ってきてもらい、介護ヘルパーと一緒に出掛ける際の買い物代や病院での支払いに充てている。
金額は沢さんらと話し合って決めた。何かと物入りな12月だけは3万円増やす。「多くも少なくもない、ちょうどいい金額。自宅で何とか暮らせるのも、このサービスのおかげ」と笑顔を見せる。
支援は貯金の引き出しに限らない。ショートステイや配食サービス利用料の支払い代行や家賃の減免申請などをすることで、金銭管理の面から在宅生活の安心を確保する。沢さんは「本人の希望は現在の暮らしを長く続けること。将来にわたって収支のバランスがとれるように気を付けている」という。
日常生活自立支援事業は全国約800の社協が手掛ける。認知症高齢者らの権利と財産を守る「成年後見制度」と異なるのは(1)軽度の認知症などであっても、本人に一定の判断力がある(2)報酬体系は1回の訪問当たり1000円程度からと安い(3)サービスは日常生活の範囲内に限定し、社協は高額の財産管理や法律行為の代理はできない――などが挙げられる。
一部重複する領域はあるものの、成年後見までは至らない高齢者らが自らの意思で契約を結ぶサービスと考えておけばいいだろう。トラブルを防ぐために、社協が管理する口座の残高は一定額に抑え、現金は訪問直前に引き出す。サービスの流れは表Bの通り。実際にサービスが始まるまでは費用はかからない。
司法書士で成年後見センター・リーガルサポート東京支部長の川口純一さんは「社協に通帳や印鑑を預けておけば、悪質商法などの被害に遭う可能性や被害額を減らすことにもつながる。高齢者の権利を守るのに役立つ仕組みだ」と話す。
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