東京都老人総合研への赴任が転機に
最大寿命150歳になれば、認知症も「解決」
短期留学で「長寿遺伝子」発見者と親交
アンチエイジング(抗加齢)医学は最近流行の学問といえるかもしれない。日本でその最先端にいるのが順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(53)。「サクセスフルエイジング」(若々しく幸せに年を重ねること)をテーマに『100歳までボケない101の方法』(文春新書)などの著書で注目されている。
僕は内科(呼吸器科)から出発したんです。千葉大の大学院に行く時に、免疫学を専攻しました。手法的には遺伝子分子生物学の研究なんです。免疫で学位を取ったあと、東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター)に病理ポストがあって「自由に何でも研究していいよ」と言われたのですが、老人研究所だから、老化の研究をしなくちゃいけないかと研究テーマを変更しました。
それがアルツハイマー(認知症)の研究でした。違う分野ですが、分子生物学の同じ方法論が使えるということでアルツハイマーの原因遺伝子の研究者になった。それは1990年のことでした。
アルツハイマー病の最大の要因は年をとることだから、基本的に若い人にはない。言い方を変えると、年をとらなければアルツハイマーにならない。普通、研究者というのは年をとらないことは想定しないし、ありえないと思う。年をとればアルツハイマーのリスクは必ず来ると考える。
7年後に転機を迎える。僕が注目したのは、年をとらない「虫」だった。遺伝子構造が人間と75%同じ線虫の寿命が遺伝子操作をすることによって実験で寿命が2倍にもなるということを証明した。虫の世界とかモデル動物の世界ではありうるわけです。
人間は平均寿命が80歳で、最大寿命が120歳という動物です。しかし、寿命をコントロールしている遺伝子があって、それに変異があったり遺伝子操作をしたりすれば、もしかしたら150歳まで生きられるかもしれないのです。
仮定の話ですが、最大寿命120歳の人生で70歳くらいで発症してくる病気が、最大寿命が150歳になったら100歳とか110歳で発症することになる。もしそうなればほとんどアルツハイマーは問題にならなくなる。というのはアルツハイマーの発症時期が遅くなり、それ以前に他の病気で亡くなる可能性が高い、と考えられるからです。
要するにアルツハイマーは治療するのではなくて予防するということが明確にできれば、治療法が解明されなくても解決すると考えました。それで「寿命の研究」に突入することになる。ちょうど遺伝子操作をして動物の寿命が延ばせるかもしれないという課題が出てきた時でした。
2003年夏に米国の海洋研究所のセミナーに短期留学すると、そこにSir2(サーツー)遺伝子(寿命を制御する長寿遺伝子)の世界的発見で有名なレオナルド・ガレンテ教授(マサチューセッツ工科大)がいた。1カ月間、一緒に実験し親交を深めた。
彼は遺伝子の研究でビールやパンでも使う酵母菌を使っていました。この単細胞の酵母菌は何回か分裂すると分裂できなくなる。それを彼は寿命と定義した。一方、何回分裂しても子供をつくれる株がいて、非常に長生きの株を彼は発見した。00年から01年の間だと思う。長生きの秘密は何だと調べていくとサーツー遺伝子という長寿の遺伝子だった。
最初はその酵母だけの特別な話だと考えていたが、線虫というミミズみたいな虫にもサーツー遺伝子があって、この遺伝子を余計に入れてあげると、その線虫の寿命が1・5倍になった。とすれば他の動物でもありうることなのではないか。研究をさらに進めていくと我々哺乳動物にも同じような遺伝子があり、それを「サーチュイン」と名前をつけた。これが世界を騒然とさせる発見となる。
ガレンテ教授と僕とは全くかけ離れたことをしているように見えます。でも、彼が実験室で長寿遺伝子の探索をしている時に、僕は長寿に至る予防医学の世界に深く足を踏み入れていた。それは互いの共通点を両サイドから深めていくことになるのです。
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